海の底から司法試験

都内大学生による司法試験合格に向けた勉強の備忘録

令和元年予備試験刑法 再現答案

1.  甲が売買代金の一部を自己の借金返済に充てる目的で本件土地の売買契約を結んだ行為に背任罪(247条)が成立しないか。
(1)  同罪は財産犯であることから「事務」とは財産的事務を指すと考える。そして、甲はVから1500万円を借りるために本件土地に抵当権を設定する代理権を授与されているから、甲はVという「他人のためにその事務を処理する者」にあたる。
(2)  次に、「その任務に背く行為」とは信任関係に背き他人に損害を与えるべき行為をいう。そして、甲は本件土地に抵当権を設定するという代理権を授与されているにもかかわらず、本件土地を売却しているところ、無権代理行為をしているといえる。そのため、甲はVからの信任関係に背いているといえるので「その任務に背く行為をした」といえる。
(3)  そして、「財産上の損害」とは全体財産の減少をいい、その有無は経済的見地から判断される。
 本問では、甲とAとの間の行為について表見代理に関する規定の適用はないところ、Vは本件土地の返還を請求することができるので、全体財産の減少はないとも思える。しかし、Vは甲の行為により本件土地の帰属をめぐってAとの紛争に巻き込まれることになり、訴訟に発展することも考えられる。Vはこのようなリスクを負わされているため、全体財産の減少があるといえる。
 そのため、Vには「財産上の損害」が認められる。
(4)  また、甲は上記事情を認識しているため、故意(38条1項)が認められる。さらに、法が図利加害目的を故意とは別に要求していることから、かかる目的に関しては確定的な認識が必要と考える。そして、甲は売却代金の一部を自己の借金返済に充てることを確定的に認識しているため、甲に「自己…の利益を図り又は本人に損害を与える目的」が認められる。
(5)  したがって、甲の上記行為に背任罪が成立する。
2.  甲が本件土地の売買契約書に「V代理人甲」と署名した行為に有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。
(1)  まず、甲は売買契約書をAに交付する目的で署名しているので「行使の目的」が認められる。
(2)  次に、上記契約書は「権利、義務…に関する文書」にあたる。そして、代理人の署名がなされた場合、効果帰属主体たる本人の部分に同罪の保護法益たる公共の信頼が生じるため、有印か無印かは本人の署名により判断する。甲は「V代理人甲」と署名しているから、「他人の…署名を使用」したといえる。
(3)  そして、「偽造」とは名義人と作成者の人格の同一性を偽る行為をいい、名義人とは文書から理解されるその意思又は観念の主体をいう。甲が署名したのは本件土地の売買契約書であり、甲は本件土地の売却に関しては無権代理人であるため、かかる契約書の作成者は「無権代理人甲」である。また、甲は「V代理人甲」と署名しているため、かかる契約書の名義人は「代理人甲」であるといえる。そのため、甲は名義人と作成者の人格の同一性を偽っているといえ、「偽造」したといえる。
(4)  したがって、甲の上記行為に有印私文書偽造罪が成立する。
3.  甲はかかる契約書を真正なものと誤信させてAに渡しているから、「行使」したといえ、かかる行為に同行使罪(161条1項)が成立する。
4.  甲がVの首を絞めた行為に殺人罪(199条)が成立しないか。
(1)  まず、首を絞める行為は人を窒息させるものとして、同罪の構成要件的結果発生の現実的危険を有する行為であるため、実行行為性が認められる。
(2)  次に、Vの死亡結果が生じているが、かかる結果との間には海に落とすという行為が介在しているところ、因果関係が認められるか。
ア  因果関係とは偶然的な結果を排除して適正な処罰範囲を確定するためのものである。そこで、因果関係は①条件関係の存在を前提として、②行為及び介在事情の結果への因果的寄与度を考慮して、結果へと行為の危険性が現実化した場合に認められると考える。
イ  そして、甲が首を絞めなければVは死ななかったため条件関係は認められる(①充足)。また、甲がVを海に落としたことの寄与度は低いとはいえない。しかし、犯人が人を殺害した際に証拠隠滅のために死体を遺棄しようとするのは通常であるため、甲がVを海に落としたことの異常性は低い。そのため、甲の首を絞めるという行為の危険性が結果へと現実化したといえる。(②充足)
ウ  したがって、甲の上記行為とV死亡との間に因果関係が認められる。
(3)  そして、甲はVの殺害を意図しているところ殺意自体は認められるものの、甲の認識していた因果経過と実際の因果経過は異なる。そこで、かかる場合にも故意は認められるか。
ア  この点、因果関係は客観的構成要件要素であるため、故意の認識対象である。そして、故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難にあるところ、かかる規範は構成要件の形で国民に与えられている。そこで、認識していた因果経過と実際の因果経過が法的因果関係の範囲内で符合する場合、規範に直面したといえ、故意が認められると考える。
イ  そして、上記の通り、実際の因果経過には因果関係が認められる。また、海におとしたとしても、失神している場合にはそのまま窒息死する現実的危険が認められるから、因果関係が認められる。そのため、実際の因果経過と認識していた因果経過が法的因果関係の範囲内で符合しているといえる。
ウ  したがって、甲には故意が認められる。
5.  甲がVを海に落とした行為に過失致死罪(210条)が成立する。
6.  以上より、甲の行為にa.背任罪b.有印私文書偽造罪c.同行使罪d.殺人罪e.過失致死罪が成立し、b.とc.は手段と目的の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)になり、e.はd.に吸収され、これらとa.は併合罪(45条前段)となる。よって、甲はかかる罪責を負う。
以上




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